今回から数回に渡って、民間における「企業調査」がどういったものかについて書いてみたいと思います。当然ながら、「捜査」と「調査」は完全に非なるものです。私の古巣である警察や検察、厚生省麻薬取締部、国税局査察部といった機関には捜査権や査察権などの法的な権限があり、その権限を行使することで対象に関する様々な情報を入手することが可能になっています。一方で民間の調査会社にはそういった権限はありません。むしろプライバシーの問題など、情報収集においては制限事項が多い立場です。
私自身、警察官という立場からリスクコントロールのコンサルタントとなったことで、「捜査」と「調査」の違いを強く意識する日々です。そこで、私やチームのメンバーがどういった方法でクライアントから依頼された対象企業の調査を行っているかを解説することで、企業の経営企画やリスク管理、デューデリジェンス、広報といった部門の現場の方の参考になればと思っています。
例えばある企業について調べようと思ったら、新聞データベースや帝国データバンクといった信用調査会社の情報に頼ることが多いと思います。もちろん、それらは基礎情報としては大事なものですが、誰でも同じように手に入れられるものです。M&Aや大きな取引時において、自社の身を守ったり、ライバルの一歩二歩先を行く武器としては十分とは言えません。
ポイントは、公開情報の効率的な収集と、それに対する独自情報の比率です。こういった調査においてはスピードも求められます。ほとんどの場合において、クライアントには集めた情報の分析結果をもとにした意思決定の期限が設定されていますから、時間を掛ければ分かりますでは通じません。
一方で、公開情報の収集が疎かになり、既知のものを独自情報として報告するようでは調査の腕が疑われます。大切なのは、公開情報をしっかりと集めたうえで、それに対する独自情報の比率を上げて行くことです。そのうえで、集まった情報をどう読み解くか。それによって情報を武器とできるかどうかが変わってきます。
前置きが長くなりましたが、とはいえ調査の基本はやはり公開情報の収集です。いまはインターネットで多くの公開情報を取得できるので、まずは下記のサービスを使って効率的に情報を収集して、その結果を整理していきます。
最初は対象の法人登記簿謄本を取得するところからです。これがすべての調査の基となります。もし謄本があがらない場合は、存在しない会社であるため対象の見直しをする必要があるでしょう。
◎法人登記簿謄本を取得
・「登記簿図書館」か「登記情報サービス」を利用することをお薦めします。
・子会社や関連会社があれば同じく取得します。
◎コーポレートサイトを確認
・登記簿謄本と違うことが表記されていた場合は要注意です。
・更新がしばらく行われていない場合は要注意です。
・会社情報に代表者の名前が書かれていない場合は要注意です。
・電話番号を記載しない会社は増えてきてるので、そこは問題ありません。
◎Googleで検索(※基本情報の確認)
・「会社名」「会社名+サブワード」「代表取締役名」「取締役名」(全員分)「取締役名+サブワード」(全員分)で検索します。
・子会社、関連会社がある場合は同様に行います。
・気になるサジェストがあった場合は控えておきます。
・検索結果は必ず10ページくら見るようにします。逆SEOをしている可能性もあるためです。
◎Googleマップで検索(※所在地の確認)
・本店所在地および支店(全箇所)を検索します。
・代表取締役の住所を検索します。
◎不動産登記簿謄本を取得
・代表取締役の自宅の謄本を取得します。
◎官報情報検索サービスで検索(※主に破産歴の確認)
・「代表取締役名」「取締役名」(全員分)で検索します。
・破産情報が見つかった場合は「同住所」でも検索します。他の家族も破産歴がある可能性があります。
◎登記簿図書館で検索(※資産調査、不動産の保有の有無)
・「会社名」で検索。
・「代表取締役名」「取締役名」(全員分)で検索します。
◎G−Searchで検索(※信用情報、過去記事の確認)
・「会社名」「会社名+サブワード」「代表取締役名」「取締役名」(全員分)「取締役名+サブワード」(全員分)で検索します。
・子会社、関連会社がある場合は同様に行います。
◎国会図書館リサーチで検索(※過去記事の確認)
・「会社名」「代表取締役名」「取締役名」(全員分)で検索します。
◎WebOYA-Bunkoで検索(※過去記事の確認)
・「会社名」「代表取締役名」「取締役名」(全員分)で検索します。
ざっと、インターネットだけでも、これだけのことができます。これらの調査で主にわかるのは、対象の基本情報、メディア掲載履歴、反社会的勢力との関わり、反市場行為の疑い、犯罪および犯罪行為の疑い、訴訟歴、破産及び民事再生歴といったことです。もちろん、あくまで公開情報なので、これで知りたいことの全てが網羅されているわけではありません。ここで集めた公開情報をベースに、独自情報をどう収集していくかが調査の本題です。
次回はビジネスデータベース検索「G-Search」の活用方法について解説します。
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