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  • 著者:櫻井裕一(STeam Research & Consulting 代表)

企業調査の実践解説(4) 知られざる「閉鎖事項全部証明書」の重要性



企業調査のために法務局によく足を運ぶと聞くと、「なぜ?目的は?」と思う人も少なくないかもしれません。これまで書いてきたように、法人登記簿謄本をはじめ、多くの公開情報はインターネットで手に入れることが可能です。しかし、タイトルにある「閉鎖事項全部証明書」には落とし穴があります。


通常の企業調査においては、コーポレートサイトの確認、上場会社であれば四季報や有価証券報告書の確認、そして「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」を確認することがセオリーです。前述の通り、「登記情報提供サービス」や「登記簿図書館」を利用すれば、簡単に安価に登記簿謄本を取得することが可能です。便利であるためチームでもよく利用していますが、この手軽さが企業調査にとっての落とし穴になることがあります。それは履歴事項全部証明書に記載されている内容は、調査においては文字通りの「全部」ではないからです。


閉鎖事項全部証明書は法務局でしか取得することができません(一部例外はあります)。履歴事項全部証明書は単純に会社の基本データであり、実際に役立つのはオンラインでは取得することが出来ない閉鎖事項全部証明書にあると行っても過言ではないでしょう。なぜなら閉鎖された事項には、その企業にとって不都合な事実が記載されていることが少なくないからです。


実際にこれまでも閉鎖事項全部証明書に記載されている情報から、調査に役立つ重要な事実が得られたケースは多々あります。意外に見落とされている、この調査手法について触れてみたいとおもいます。なお、ある程度調査に携わっている企業担当者の方に向けた解説となるため、登記簿謄本の種類の説明などは省きます。


◆閉鎖事項全部証明書取得のポイント

 ・法務局で閉鎖事項全部証明書を取得する際は、必ず創業の時まで遡ります。

 ・閉鎖事項全部証明書を取得したら必ずその場で、更に閉鎖された事項がないかを確認することが重要です。


◆閉鎖事項全部証明書から何がわかるか

 ・過去に就任した実績のあるすべての役員の名前。

 ・代表取締役の住所や引っ越ししてきた過去の家。

 ・創業当初の資本金。

 ・創業当初の事業目的。

 ・社名変更の歴史。

 ・過去の本店、支店所在地の歴史。

 ・役員の氏名変更(結婚なども含む)。


よくあるケースが、対象企業の代表取締役社長の上に「会長」と呼ばれる人間がいることが調査によって判明することです。履歴事項全部証明書には取締役として載ってる人物が、閉鎖事項全部証明書を遡ると、長年に渡り代表取締役を努めていたような場合、その人物が現在も実質的なオーナーとして力を振るっている可能性が高くなります。こういった場合、現代表取締役社長と進めていたM&Aなどがちゃぶ台返しに遭うリスクが生じる可能性があるので注意が必要です。


もっと分かりやすい例では、履歴事項全部証明書には載っていない過去に辞任した取締役に逮捕歴があったケースや、取締役の中に暴力団構成員が含まれていたといったこともあります。詳細は避けますが、履歴事項全部証明書を綺麗に見せるためのテクニックも存在しますので、やはり対象企業の実態を把握するためには閉鎖事項全部証明書の精査が欠かせないと言えるでしょう。


次回は「大宅壮一文庫」について解説したいと思います。

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