今回は、調査によってある太陽光発電への投資詐欺を被害に未然いただケースについて、どういった手法で調査を行ったかについて解説したいと思います。
ここ数年、太陽光発電への投資を謳った詐欺が流行っています。インターネット上でも、大小様々な投資詐欺被害の情報が溢れていて、実際に事件として立件されたものも少なくありません。クライアントからの依頼は、投資を検討している、ある太陽光発電事業の実態調査でした。
①基礎情報および関係書類の収集
まずは、基本通り登記情報サービスを利用して対象となる事業の運営会社の登記簿謄本、本店所在地、代表取締役の住所の不動産登記簿謄本を取得します。併せて、グーグル検索でインターネット上の風評について確認しつつ、G-Searchを利用して過去記事、帝国データバンク、東京商工リサーチ、東京経済社から、会社及び代表取締役の情報を取得します。
②収集の分析
集めた情報から、どういった事実が明らかになっているかを確認し、それらの精度を見極めながら整理していきます。ポイントとなるのは、なにが「記載されていないか」です。特に一般的には明らかになっていてもおかしくない情報がない場合は、それが「なぜないのか」が後に重要になってくるケースがあります。
③初動ヒヤリング
基礎情報が少ないケースでは、対象企業に直接ヒアリングを試みることもあります。調査と言うと、なぜだか隠れて行うイメージがあるかもしれませんが、捜査とは違い、必ずしも内密にする必要はなく、むしろ「あなたの会社を調査しています」と言った方が話がスムーズに進むケースもあります。実際のところ、公開情報にない独自の情報を得るためには、関係者、周辺者の話を聞いてなんぼの世界でもあります。得たい情報や疑問があれば、素直に当事者にその内容をぶつけることが以外に近道だったりするのです。しかし、なんの準備もなければ素直に答えを得られる可能性は低くなります。だからこそ、答えを引き出すための公開情報の収集が大事と言えます。
④公的機関へのヒアリング
本ケースでは、次に管轄省庁である経済産業省に問い合わせを行いました。すると、この時点で以下の事が分かりました。
・太陽光発電所を設立するには、「林地開発許可証」「環境影響評価書」の取得が必須であること。
・その取得場所は、各都道府県庁になること。
・同じく各市役所に対しても「事業概要書」を提出して、「環境保全協定書」を交わさなければならないこと。
そこで現地に当たる都道府県庁の環境生活部で、対象企業が「環境アセスメント評価」を取得しているかを確認したところ、取得している事が判明したので、その内容を確認するために公文書開示請求をおこないました。ちなみに、どのような書類であっても「公文書」であれば、日本国民が請求すれば必ず取得するとことが可能です。同様に農林水産部にも行き、「林地開発許可書」の写しの請求も行いました。
⑤工事現場の現地調査
上記の書類の取得過程において、役所の各担当の話しぶりから、この対象企業の評判はあまりよくないことも分かりました。行政との対応のしかたにも問題があるようで、工事開始当初から、地元では反対運動が起きていたことも分かりました。そこで工事現場がある町の各自治会長に電話にてヒアリングしたところ、「県と市が許可をしてしまっているのだから、心情は反対でも反対のしようがない」とのコメントを引き出せました。ここから分かるのは、太陽光事業は許認可を得るまでは大変なものの、許認可さえ取れてしまえば事業者の立場が強くなるという構図でした。現場に着くと工事は問題なく行われていました。ここでのポイントは、工事の看板などの写真をすべて取る事です。そして、そこに書かれている工事事業者にもヒアリングを行うことです。
⑥工事事業者と地元議員へのヒアリング
工事業者には電話でヒアリングを行い、対象企業との関係と地域住民から苦情はないかについて聞いたもののの、回答を得られませんでした。しかし、地域住民へのヒアリングの過程で得た、自然保護のボランティア団体に連絡したところ、工事には大反対していて、裁判も辞さない考えである事が分かりました。その団体としては争いが終わった認識はまったくなく、今後も反対運動を継続していくとの事でした。そして、その反対運動には現職の地元議員も関わっている事も判明しました。そこで、議員事務所に電話をしてアポイントを取ると、丁寧に話を聞く事ができました。結果としては、反対運動自体は継続する意向であること、さらには対象企業から反社会的勢力に金銭が渡っている情報があるという具体的な証言も得ることができました。
⑦調査報告
これらの現地調査と公開情報から得られた内容について、定性・定量で整理し、分析結果を付加した上で調査報告書として報告することで、調査は完了です。この時に大事なのは事実をベースにしたことのみ述べる事です。
以上が企業調査のあらましです。実際のケースをぼかして書いているので、やや分かりづらい面があったかもしれませんが、こういった形で公開情報と足を使った独自情報を組み合わせながら、実態に迫っていくのが私たちのチームのスタイルです。もちろん、業界によって調査方法は変わってきますので、企業調査は常に手探りとも言えます。
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